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新家工業の歴史と含み益

 新家工業の歴史と含み益

石川県には上場企業が27社ある。歯科医院向けに歯科用品などを通信販売する歯愛メディカル(3540、白山市など今どきの若い企業もあるが、澁谷工業(6340、金沢市津田駒工業(6217、金沢市など歴史のある製造業企業が目立つ。そして興味深いのは、製造業の上場企業は石川県で盛んな繊維産業や伝統工芸と深い結びつきを持っている企業が少なくないことだ。

既に石川県から大阪府へ本社を移転させているものの、新家工業(7305、大阪市も伝統工芸から発展してきた経緯がある。

 新家工業の歴史

現在の新家工業は、様々な用途に利用される鋼管の製造、自転車関連部品の製造を行なっている企業であるが、新家工業の事業は1903年に石川県山中村(現‐加賀市)において、当時輸入に依存していた自転車用木製リム(車輪)を日本で初めて製造したところから始まっている。

 

気になるのが「なぜ、石川県(加賀市)で自転車用木製リム(車輪)の製造が始まったのか」という点であるが、それは加賀市には日本を代表する温泉地「山中温泉」があり、江戸時代頃から土産物として漆器製のお椀やお盆など「山中漆器」が作られてきたことにある。新家工業の創業者である初代・新家熊吉も石川県山中村(現‐加賀市)で山中漆器の木地挽き(木を削りお椀やお盆の形に加工する)職人だった。

新家熊吉は、木地挽き職人でありながら山中漆器の販売も行なっており、新たな販路を求めて1902年にウラジオストクに出張した際に、そこで木製リムの存在を知り、木材を円形に削るという漆器との共通点にヒントを得て、木製リムの事業化に乗り出したというわけである。

そうして設立された新家工業は木地挽きのノウハウを生かし事業を拡大するとともに、リムが木製から鉄製へ移行する流れを読み、いち早く鉄製リム製造に着手した。さらに鉄製リム製造のノウハウは、現在の主力事業である鋼管製造に生かされている。

 新家工業の現在

このように、山中漆器の木地挽きから自転車用木製リム、木製リムから鉄製リム、鉄製リムから鋼管へと事業を発展させてきた新家工業の現在の主力事業は、鋼管関連事業である。近年では利益の7~8割を稼いでいる。

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ただ、この鋼管関連事業で手掛けている鋼管製品は、主に自動車向けや建材として使われるため景気変動の影響を受けやすい。この不安定な鋼管関連事業を下支えする意味もあり、新家工業が強化しているのが不動産等賃貸事業だ。

東京都大田区の旧東京工場(2000年閉鎖)の跡地を2002年からホームセンターのコーナン商事に、2019年からは旧関西工場跡地の一部を大和ハウス工業に賃貸している。この他、賃貸ビルも保有しており、不動産等賃貸事業では年間約4億円の利益を稼いでいる。

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そして驚くべきことは、これらの新家工業の賃貸等不動産は貸借対照表計上額711百万円なのに対し、不動産鑑定評価基準に基づいた時価評価額が9,480百万円ということだ。つまり8,769百万円もの不動産含み益を抱えているのだ!

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ただでさえ、新家工業のPBRは0.30倍(1月25日終値ベース)にとどまっているが、税引き後賃貸等不動産含み益を考慮した実質PBRは0.24倍だ。旧関西工場を50年の定期借地権契約で賃借している大和ハウス工業なら新家工業を買収してしまった方が安く上がるとさえ思える安さだ。

企業の歴史に興味があり、石川県出身かつ割安株に投資している自分としては、新家工業は非常に気になる存在である。より深く調査してみる価値はありそうだ。

 今日の関連株

  • 新家工業東証一部 7305)各種鋼管の製造メーカー。山中漆器から自転車製造へ展開。賃貸等不動産が大きい。
  • 大同工業東証一部 6373)2輪車用チェーンで国内トップ。自転車製造を行なっていた新家工業が1933年に自転車用チェーン製造メーカーとして設立。

【決算ウォッチ】ビオフェルミン製薬 2021年3月期3Q

【決算ウォッチ】ビオフェルミン製薬 2021年3月期3Q

現在、ポートフォリオの主力に据えているビオフェルミン製薬(4517)が1月21日に2021年3月期第3四半期決算を発表した。ビオフェルミン製薬大正製薬ホールディングス(4581)が63.8%を出資する子会社であり、販路も完全に一体化していることから、いつ親子上場解消のTOBがかかっても不思議ではない。今回の決算発表に合わせてのTOBはなかったが、簡単に同社の第3四半期決算をチェックしたい。

 1.決算概要

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売上高8,119百万円(前期比▲13.0%)、営業利益2,139百万円(同▲22.7%)で大幅減収減益。

通期業績予想に対する進捗率は、売上高で74.3%、営業利益で98.1%、当期純利益で101.4%となった。当期純利益では通期予想を超過しているが従来の業績予想を維持した。

 2.事業動向

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ビオフェルミン製薬は、乳酸菌を主成分とする「ビオフェルミン」ブランドの各種の整腸剤を扱う製薬会社である。ただ、製薬会社とは言っても一般大衆向製品が売上高の約70%を占めており、新薬の研究開発などへの投資はあまり必要とせず、一方で重要なのは一般消費者から選ばれ続けるためのブランドへの投資である。

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そのため、広告宣伝費は売上高の15~20%近くにも上る。そしてこれまでのこのブランドへの投資が25%を超える高い営業利益率を可能にしているわけだ。

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(過去20期で営業利益率20%を下回ったのは2000年の19.6%のみという高収益)

また、広告宣伝費は、自社の裁量で調整可能なため、ビオフェルミン製薬はある程度は利益の水準を自社でコントロールできる会社と言っていい。緊急事態宣言下の今第1四半期決算(4~6月)が大幅増益だったのも、販管費の大部分を占める広告宣伝費を抑制したためだ。

今第3四半期決算は、外出自粛の影響とみられる売上高の減少がみられるものの、当期純利益では、新型コロナウイルスの影響を過大視している会社予想を既に超過。会社側としては、再度緊急事態宣言が発令されている足元の状況を考慮し、通期予想を据え置いたのだと思うが、自分は通期では当期純利益が1,800百万円[EPS150円]になると予想。(会社予想は1,560百万円[EPS130.42円])

そして目下最大の経営課題は、来月着工予定の新工場である。これまで溜め込んできたキャッシュの大部分を吐き出すことになる(全額自己資金で165億円の投資)わけで、こちらにも注目していかなければならない。

 3.まとめ&感想

  • 第3四半期決算は前期比で大幅減収減益。
  • コロナの影響等で売上高減少も、3Q期間の営業利益率は25.1%
  • 通期業績予想は超過も、会社側はコロナ感染拡大を慎重視。
  • 165億円投資予定の新工場が来月着工。

健康意識の高まりを背景に整腸剤市場は緩やかな成長()が続いており、ビオフェルミン製薬も同様に業績成長している。事業は過去の景気後退局面にも強く、コロナ耐性もある。長年のブランドへの投資が驚異的に高い営業利益率・現金創出力を実現させており、無借金経営かつ総資産の約半分が現金預金。

一方で、足元の株価はPBR1倍ちょうど。長期的にはROEに近いリターンが得られる債券だと思ってTOBがかかるまで保有を続けたいと思う。(明日は下がりそう。。。)

 今日の関連株

村田製作所株の値上がりの裏で

 村田製作所株の値上がりの裏で

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村田製作所(6981)の株価が上がっている。「iPhone12」は過去に前例のないほどの買い替えサイクルを迎えるとの見方や、5G対応スマホ、電動化の加速による車載向け需要の増加など、コロナ禍にあっても、セラミックコンデンサーには強い引き合いがあるようで、昨年末から上場来高値の更新を続けている。

先週15日の終値10,040円は、2020年3月末の5,472円から1.83倍だ。

収益性、成長性、財務基盤のどれを取っても文句のつけようがない素晴らしい企業でありながら、一方でPER33.99倍、PBR3.65と極端な割高感があるわけでもない。だが、バリュー投資家の自分としては買えない株価水準だ。

 間接的に村田製作所の株を買う

そこで考えたいのが、村田製作所株を保有している企業の株を買う、つまり「間接的に村田製作所の株を買う」という方法である。例えば、京都銀行(村田株1,578万株保有)や戸田建設(同541万株保有)の株を買うということだ。

だが、総資産に占める村田製作所株式の額の割合は、2020年3月末時点で、京都銀行で0.8%、戸田建設でも4.6%であり、これでは「間接的に村田製作所の株を買っている」とは言いづらい。

やはり最も「間接的に村田製作所の株を買っている」と言えるのは、何度かこのブログでも取り上げたモニターメーカーのEIZO(6737)の株を買うことのようだ。2020年3月末時点の総資産125,284百万円の18.0%に当たる22,659百万円が村田製作所の株式である。

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そして直近の値上がりで、これが41,575百万になっている。仮に2020年3月期末と資産内容に変化がないとすると、総資産の28.8%を村田製作所株が占める計算である。

 EIZO村田製作所株の保有目的を変更

EIZO村田製作所の株式をこれほど保有しているのは、村田製作所創業家EIZOの前身企業を設立したという創業の経緯からである。現在も取締役7人中、社長を含め3人が村田製作所出身である。

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コーポレートガバナンス報告書(2020年)より

一方で、取引関係はほとんどない。そうした実態に配慮したのか、EIZOは2020年3月期有価証券報告書から村田製作所株の保有目的を「特定投資」から「純投資」に変更している。電話でIR照会した際(2020年8月4日のブログ)は「片思い保有の位置づけを明確化するため保有目的を変更した」と(のことだったが、総資産の約3割を占める株を純投資目的で持つというのは、やはり無理があり、自分は近々売却するのだろうと見ている。300億円の売却益を得れば、さすがに村田製作所株と対称的に安値圏にある株価も動意を見せるのではないか。

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いずれにせよ、EIZOは、総資産の約3割が村田製作所株、村田製作所株と他社の株式を合わせると総資産の約4割が投資有価証券である。これはやはり過大な投資有価証券の保有だと言わざるを得ない。だが、収益性、成長性、財務基盤のどれを取っても文句のつけようがない素晴らしい村田製作所株を簡単に手放してしまうのはもったいない気もする。近々売却するにしても経営陣は難しい売却タイミングの判断が迫られそうだ。注視を続けたい。

 今日の関連株

  • EIZO東証一部 6737)PCや遊技機用ディスプレー専業メーカー。ヘルスケアや航空管制用途が拡大。欧州売上が大きい。
  • 村田製作所東証一部 6981)電子部品大手。世界トップのセラミックコンデンサーが主柱。原料からのセラミック技術に強み

スバル興業の事業立地

 スバル興業の事業立地

大学では、企業の歴史を学ぶ講義を好んで受講し、三菱や三井など財閥の成り立ちや、数々の日本を代表する企業がどのように発展してきたかを学んできた。個人的趣味としても大学図書館国会図書館で100社以上の社史を読んできた。

そうした経験から言えることは、企業の歴史を学ぶということは、企業を多面的に俯瞰して見るということであり、それは投資家として企業を見る目線に似たようなものがあると感じている。そのため、自分自身は投資対象を分析する際に、その企業がどのような歴史を持っているのかについても見るようにしている。

特に好きな企業は、事業環境や社会の変化とともに大胆にその事業を変化させてきたような企業だ。既存事業に固執せずに、儲かる事業立地へと大胆に移っていくアイデンティティが生きているのであれば、今の激変の時代にも生き残っていけるかもしれない。歴史を調べていても、その様はドラスティックでおもしろい。そんな僕が、最近注目しているのが東宝の子会社、スバル興業(9632)だ。

 スバル興業の歴史と事業立地の転換

スバル興業は、映画興行を行なう企業として、戦後間もない1946年2月に三菱系企業の出身者が中心となり設立された。有楽町の映画館「丸の内名画座」は立地に恵まれ、娯楽が少ない当時は大成功を収め、次第に関西や中国地方にも映画館を開館していった。

しかし、娯楽の多様化とともに1960年には映画事業はその成長に陰りが出てきたことから1960年代以降、同社は「誰に、何を売るのか」という事業立地の転換を模索するようになっていった。進出したのは外食事業、ボウリング事業、そして現在の主力事業となる道路関連事業である。

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外食事業、ボウリング事業は「一般消費者にレジャーを売る」という点で映画興行と共通点がある。しかし、道路関連事業は「官公庁に道路関連サービスを売る」という全く異なる事業立地である。1963年に道路関連事業として最初に進出したのが「首都高速道路公団回数通行券の販売受託」、道路公団の委託を受けて通行券の販売を行なう事業である。詳しい資料を見つけられていないものの、映画館で半券をもぎる従業員に通行券をもぎらせたのかもしれない。翌1964年には道路の維持管理分野に進出していった。

 現在のスバル興業

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上記のように、映画興行で創業したスバル興業だが、現在は道路の補修工事や清掃など維持管理を手掛ける道路関連事業が全体の9割を占めている。レジャー事業に分類されていた祖業の映画興行事業も、2019年10月に最後の映画館「有楽町スバル座」を閉館し撤退している。

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 2021年1月期は、レジャー事業で手掛ける飲食店等が新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けているが、主力の道路関連事業では極めて好調に事業が進捗している。道路の安全安心に関わる事業であるため、景気変動や社会情勢の変化に強く、高度成長期に整備された道路・橋梁等の老朽化が進んでいることもあり、中長期的にも安定しているだろう。

 イケイケの新興企業のような眩しさや急速な業績成長はないが、緩やかに成長する高配当の安定バリュー株としては魅力的な投資対象なのではないか。しかも映画興行事業から撤退した今でも映画館で使えるTOHOシネマズギフトカード2,000円という株主優待付きときている。

親会社・東宝との親子関係に変化の兆し(今期、東宝への短期貸付金の大半を取り崩し)もあり、スバル興業が今後どのように企業としての姿を変化させていくかも、企業史ウォッチャーとしても注目していきたい。

 今日の関連株

  • スバル興業東証一部 9632)映画興行で創業も、現在の主力事業は道路メンテナンス。東宝が親会社。飲食店の運営や不動産賃貸も行う。

【決算ウォッチ】カワサキ 2021年8月期1Q

 【決算ウォッチ】カワサキ 2021年8月期1Q

年末年始は忙しく、12月15日を最後にブログを更新していませんでしたが、今年も50~100回ほど更新するつもりでやっていきますので、本年もよろしくお願いします。

今日1月14日に投資先のカワサキ(3045)が第1四半期決算を発表したので、早速、内容を見ていきたい。

 1.決算概要

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売上高423百万円(前期比▲5.5%)、営業利益119百万円(前期比+7.9%)の減収増益となった。2021年8月期の業績予想は、新型コロナウイルスの影響を算定できないとして、引き続き「未定」とした。

 2.事業動向

カワサキは、ヨーロッパの伝統織物「シェニール織」を素材とする、高級ハンカチ、タオル、バッグなどの製品を販売する企業である。だが、これは表向きの姿であり、保有する15か所の倉庫の賃貸と、倉庫の屋根に設置した太陽光発電の売電を行なう、宛らインフラファンドのような企業というのがカワサキの実態だ。

 

2006年の上場以来の業績推移を見てみても、2013年以降赤字が続いている服飾事業を段階的に縮小し、安定した収益の見込める倉庫・賃貸事業に経営資源を集中しているように見える。

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今第1四半期もその傾向は変わらないものの、服飾事業では、これまでの直営店や百貨店を中心とした販売体制から通信販売やテレビショッピングを強化し、コロナの影響がありながらも減収幅は前期比▲10.4%に抑え、増益を達成している。賃貸・倉庫事業は、新型コロナウイルスの影響を受けることなく安定している。

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 3.まとめ・感想

  • カワサキの実態はインフラファンド、あるいは倉庫会社。
  • 赤字が続く服飾事業にも収益体質改善の兆し?
  • 泉佐野市の土地を1月中に売却予定、概算260百万円の特別利益を見込んでいる。
  • 光通信が発行済み株式の3.43%を保有する第4位株主。

 

自分は、カワサキは第1四半期決算発表と合わせて、固定資産売却益計上の開示、それを加味した業績予想を出してくると思っていたが、今回は出なかった。引き続き、売却益の開示と業績予想を待ちたいと思うが、売却益が乗ると、おそらく今期のEPSは200~220円程度になるのではないか。これは今日の終値1,052円ベースでPER5倍である。

 

カワサキは、事業内容が地味でおもしろみがないが、利益柱の倉庫賃貸と売電は、コロナや景気変動の影響を受けにくい。泉佐野市の土地売却で得る約6億円も、新たな賃貸倉庫の取得に充てるはずであり、倉庫会社としてゆっくりと安定成長していけるのならば投資対象として割とおもしろいのではないか。

 今日の関連株

【決算ウォッチ】さくらさくプラス 2021年7月期1Q

【決算ウォッチ】さくらさくプラス 2021年7月期1Q

2020年10月28日に東証マザーズに、保育所の運営を行なう「さくらさくプラス」が新規上場した。公募価格2,330円に対し上場後初値3,435円という好調な出だしだったものの、最近は公募割れとなる2,200~2,300円台で低迷していたため買ってみた。12月14日に2021年7月期第1四半期決算を発表したので簡単に決算と同社の事業を見てみたい。

 1.決算概要

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売上高2,187百万円(前期比+33.5%)、営業利益29百万円(前期比+81.2%)の増収増益となった。一方で純損益は▲38百万円と赤字に転落した。

通期業績予想に対する進捗率は、売上高で22.7%、営業利益で6.2%、純利益で-3.5%

 2.事業動向

さくらさくプラスは、主に東京都において保育施設60か所(2020年7月末時点)の運営を行なっている企業である。近年、都市部の待機児童問題が深刻化する中で、同社は急速に保育所数を伸ばし成長してきた。

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さくらさくプラス2021年7月期第1四半期決算説明資料

保育所運営事業の事業特性として、国・自治体からの「運営に関する各種補助金」が売上高となり、保育所を新規開設した際には「設備投資に関する各種補助金」が営業外収益に計上される収益構造が挙げられる。また、開設直後は待機児童が多い0~2歳児クラスが多く、一方で3~5歳児クラスが少ないというクラス構成となる。これが各児童の持ち上がりにより5年程度で定員が埋まり収益が最大化するという特徴がある。

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さくらさくプラス2021年7月期第1四半期決算説明会資料

さくらさくプラスの場合、開設から3年未満の施設が44か所と多く、収益最大化まで数年を要するため営業利益が低水準であり、営業外収益に計上される新規開設時の「設備投資に関する各種補助金」に頼る部分が大きい。

 

今第1四半期は保育所の新規開設が無かったことが純損益▲38百万円へと赤字転落した要因だ。ただ第3四半期は、新年度となる4月に合わせて12か所の新規開設が予定されており営業外収益に約1,800百万円程度の補助金収入が計上されると推定される。(第2四半期、第4四半期にもそれぞれ1か所の開設を予定)

 

純損益が赤字転落したことから第1四半期決算の見栄えは悪いが、「期初の計画通りに進捗しています」という会社側の説明通りであると思われる。

 3.感想

  • 売上高は、国・自治体からの補助金であるため、事業環境は安定していて見通しやすい。
  • 同社は、開設から3年未満の保育所が全体の約6割を占めており、少なくとも収益最大化まで数年間は増収が見込める。
  • 入所している児童数で補助金の額が決まるため、今後新型コロナウイルスの感染が拡大し休園となっても補助金は支給される。
  • 保育所に特化した不動産ファンド事業も行なっており、その進展も期待される。

 

今後数年間の業績成長が見込め、新型コロナウイルスの影響もなく安定している割には、公募価格割れの2,329円、PER8.28倍まで売り込まれている。同業のJPホールディングス22倍、グローバルキッズカンパニー14倍と比べても割安だ。上場から月日が経ち同社の事業に対する理解が深まれば株価水準の訂正が進んでいくのではないだろうか。

 今日の関連株

三谷セキサンの自社株買い

 三谷セキサンの自社株買い

福井県に本社を置くコンクリート製品メーカーの三谷セキサンが2020年2月14日から実施していた自社株買いを12月10日で終了し、12月11日から新たに17万株を上限とする自社株買いを開始した。以前から三谷セキサンは、自社株買い期間の終了とともに新たな自社株買いを設定することが多く、年がら年中自社株買いを行なっているイメージがあったが、調べてみたところ、実際に2015年5月からほぼ切れ間なく自社株買いを続けていたことがわかった。

 

三谷セキサンは自社株買いを行なう理由として「機動的な資本政策ならびに株主への利益還元を行なうため」としている。確かに自社株買いを行なうと、その分だけ発行済み株式数が減り、利益総額が変わらなければ1株当たり利益が増えるため、株主としてはもちろん歓迎すべきことだ。しかし、三谷セキサンの場合、自社株買いを行なう理由として将来的なMBOを模索していることがあるように思えてならない。

 自社株買いの「株主構成の調整効果」

自社株買いは、自社株買いに応じた株主のみから株式を買い上げるため、自社株買いに応じなかった株主の持ち株比率を上昇させる効果がある。企業に対する期待が高い投資家や取引関係がある持ち合い先企業は、自社株買いに応じるよりも株式保有の継続を選択するため、結果的に企業に対する期待の低い投資家や短期的な投資家を減少させる。

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例えば、上の表のような株主構成の企業が10株の自社株買いを行ない、短期的な値上がりを期待している株主Dがそれに応じた場合、株主A(創業家)と株主C(取引先)は保有株式数は不変でも、持株比率は61%から67.7%に上昇する。全株式の2/3を保有する株主A(創業家)と株主C(取引先)が合意すればMBOを実施できるというわけだ。

 三谷セキサンの株主構成

2000年から2020年までの20年間の三谷セキサンの株主構成を調べてみたところ、創業家系株主(一般財団法人三谷市民文化振興財団、三谷商事一般財団法人三谷進一育英会三谷宏治、三谷滋子、三谷総業)の保有株式数は711.9万株(2000年)⇒731.4万株(2020年)と僅か20万株しか増えていない。しかし、この間、三谷セキサンは578万株の自社株買いを行なったことにより、創業家系株主の議決権比率は28.86%(2000年)⇒38.11%(2020年)へと約10%も上昇している。

 2000年

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創業家系株主の保有株式数:711.9万株(議決権比率28.86%)

自社株式数:0.9万株

 2010年

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創業家系株主の保有株式数:724.4万株(議決権比率35.05%)

自社株式数:431.7万株

 2020年

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創業家系株主の保有株式数:731.4万株(議決権比率38.11%)

自社株式数:579.6万株

 まとめ

 

上記のような状況からMBOへのハードルは比較的低いと考えられる。北陸新幹線の延伸工事、国土強靭化計画など事業環境の見通しは比較的良く、また今後も継続的に自社株買いが実施され1株当たり利益及び純資産の着実な成長が見込まれることから、より詳細に事業について調べてみるとおもしろい投資先になるかもしれない。

 今日の関連株

TBSという投資会社

 TBSという投資会社

www.nikkei.com

11月30日にリクルートホールディングスの株式を持つ電通グループ凸版印刷など8社がリクルート株の売り出しを行なうと公表した。リクルートには創業期に取引のあった印刷会社や株式持合を行なっているメディアの株主が多く、TBSホールディングスも3,333万株(時価1,351億円)ものリクルート株を保有している。今回、TBSHD保有株式3,333万株のうち833万株を売り出し、売却益297億円を得る。

 

ところでTBSHDリクルート株(時価1,351億円)以外にも半導体製造装置大手の東京エレクトロン株(時価2,210億円)を保有していたり、不動産事業の資産が多いなどの事業構造から、「放送会社というより投資ファンド」と株主の投資ファンドから批判されてきた。

 

通信会社から投資会社へと変身したソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長は2月頃から盛んに「SBGは投資会社。指標は売上高や営業利益ではなく企業価値だ。」と強調するようになっている。そして具体的に企業価値とは、保有する株式から純負債を引いたNAV(Net Asset Value)という指標なのだそうだ。2020年3月期第3四半期決算説明会でも「25-4=9?」というスライドで、保有株式の価値25兆円から純有利子負債4兆円を引くと21兆円になるのに時価総額は9兆円にとどまっているのは割安だと力説していた。

 

孫会長が言うように、投資会社を評価する正しい指標がNAVならば、TBSHDも同様にNAVで評価できるのではないか。

 

 ソフトバンクグループの一株当たりNAV

SBGは自社のIRページでNAVを株式数で割った「一株当たりNAV」の情報を公開している。それによると2020年10月1日時点で一株当たりNAVは、保有株式価値16,466円から有利子負債1,938円を引いた14,528円あるらしい。

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ソフトバンクグループ一株当たりNAV情報

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中国EC最大手のアリババ株18兆円、英半導体設計会社アーム株2.6兆円、など保有株式価値の合計は30.9兆円。純有利子負債3.6兆円を引いたNAVは27.3兆円になることから、時価総額が14.8兆円(12月7日)だと大きく乖離しすぎており、孫会長が言うように割安だというわけだ。

 TBSホールディングスの一株当たりNAV

SBGと同じように2020年12月7日時点のTBSHD保有株式と不動産から有利子負債を引いたNAVを発行済み株式数で割り「一株当たりNAV」を算出してみた。

 

TBSHD保有株式の中で額が大きいのはやはり東京エレクトロン時価2,210億円)とリクルートHD(時価1,351億円)だが、それ以外にも34銘柄1,417億円を保有している。そして港区赤坂に保有する不動産の時価評価額が3,137億円。一方でTBSHDは実質無借金であるばかりか、ネットキャッシュが836億円もあるため、純負債はマイナスだ。

 

これらをSBGの「一株当たりNAV」の算出方法に従い、保有株式+不動産評価額の合計8,117億円から純負債-836億円を引き、発行済み株式数1億7,228万株で割ったところTBSHD一株当たりNAVは5,197円となった。ちなみに12月7日のTBSHDの株価は1,889円である。f:id:enterprise-research:20201208034604p:plain

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 SBGとTBSの比較

2020年12月7日の両社終値を基準にすると、SBGの株価はNAVの49.0%、TBSHDの株価はNAVの36.3%なので、単純にNAVだけで比較した場合、TBSHDの方が割安である。またTBSHDのNAVには本業のメディア・コンテンツ事業やライフスタイル事業の価値が入っていないことを考えるとTBSHDはかなり割安な状態にある。

 

そしてその割安さが放置されてきたのは、やはり同社のガバナンス体制の脆弱さや投資家を軽視した経営姿勢の分がディスカウントされているのだろう。

 

しかし今回SBGと比較することで、ITの巨人と半導体を押さえている投資会社という意味では、SBGもTBSも似ていると感じた。一見、放送会社だと思われているTBSは実はこれからのAI・IoT・ビッグデータの時代にかなり恩恵を受ける株になるのではないかと思わないでもない。

 今日の関連株

株主資本コストを計算してみた

 株主資本コストを計算してみた

企業価値を向上させるためには、ただ利益を上げるだけではなく、事業を行なうために調達した資金にかかるコスト(資本コスト)以上の利益を上げなければならない。そうした考え方は長らく日本においては軽視されてきたが、近年の一連のコーポレートガバナンス改革により注目されている。

 

自分自身も企業の資本コスト算出方法については、これまで大学の授業等で習ってはいたものの、算出の際に用いる数値が実態とかけ離れていることもあり、上手く使えていなかった。しかし、最近読んだ『企業のための資本コスト試算マニュアル』(明田雅昭、2020年)というレポートでは、企業で実際に用いられている平均的な条件の数値などが示されていたので、今後の投資の参考にしようと思い、主力株にしているビオフェルミン製薬の資本コストを推計してみた。

 

 ビオフェルミン製薬の株主資本コスト

資本コスト推計で最も利用されているCAPM理論に基づいてビオフェルミン製薬の資本コストを推計する。CAPM理論によれば、企業の株主資本コストは「株主資本コスト=Rf+β×(Rm-Rf)」で表すことができ、全ての企業で共通のRmとRf、企業固有のβの3つで決まる。

 

それぞれの値は、

  • Rf=リスクフリーレート(教科書では10年国債の利回り)
  • β=個別資産の市場全体に対する感応度
  • Rm=市場期待リターン
  • (Rm-Rf)=リスクプレミアム

である。大学の授業ではリスクフリーレート(Rf)には10年国債の利回りを用いると習ったが、レポートによれば、近年、10年国債利回りがマイナス化していることなどから実際には20年国債の利回りがリスクフリーレートに近いようだ。またリスクプレミアム(Rm-Rf)は6.9%を推奨値としていた。β値はロイターが対TOPIX5年間のものを公開しているのでそれを用いる。

 

それぞれ実際の数値を当てはめると、Rf=20年国債利回り=0.38、Rm-Rf=6.9%、ビオフェルミンのβ=0.37、であった。

 

よって、「ビオフェルミン製薬の株主資本コスト=0.38%+0.37×(6.9%)=2.85%」となる。

 

 エクイティスプレッド

ビオフェルミン製薬企業価値を向上させるためには、株主資本コスト2.85%を上回るROEを達成しなければならない。平均的に同社は長期的に7.0~10.0%程度のROEを維持しているため、株主資本コスト2.85%と比較すると4.0~7.0%のエクイティスプレッドがあることになる。つまりビオフェルミン製薬は長期安定的に企業価値を創造している企業だ。

 

 感想

ビオフェルミン製薬は足元ではPBR0.90~1.00倍程度で評価されているが、長期的に安定して4.0~7.0%のエクイティスプレッドを維持している割には評価が低いように感じる。また同社は投資家に対する情報開示姿勢などがやや後ろ向きであり、決算や事業の詳細な説明や中期経営計画の策定・開示などを行なうことでさらに資本コストを低下させることができるはずだ。来年の株主総会では資本コスト関連の質問をしてみたい。

 

 今日の関連株

【光通信ウォッチ】3770ザッパラス

 【光通信ウォッチ】3770ザッパラス

自分は複数の光通信銘柄へ投資を行なっていることから、光通信の投資活動に高い関心を持っている。しかし同社の投資先には共通点がありそうでない。投資先を1社1社分析することで同社の投資方針や傾向など何らかの新たな発見があるのではないかということで前回から「光通信ウォッチ」と称して約180社に上る投資先の分析を始めた。初回のアイチコーポレーションの分析ではどうやら「ネットキャッシュ>時価総額」が一つの判断基準なのではないかということがわかった。今回は光通信が20.09%もの株式を保有するザッパラスを分析する。

 1.会社概要

ザッパラスは、2000年に設立され、NTTドコモの携帯電話IP接続サービス「iモード」向けに占い、待受画面、Eコマース等のデジタルコンテンツ配信を行なう企業として成長した。2005年に東証マザーズに上場してからは占い関連のコンテンツに特化している。

 

しかし、フィーチャーフォン向けコンテンツで成長してきたザッパラスはスマートフォンへの対応が遅れたことから2011年をピークに業績は右肩下がりを続けている。2018年にはついに赤字に転落、前期は3期ぶりに黒字化、今期も黒字を見込んでいるものの、2011年の最高益にはほど遠い経営状況だ。

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 2.光通信の投資目的

光通信の投資先の中には投資意図があまり明確ではないものが多いが、ザッパラスの株式を20.09%も取得した理由は同社の財務状況をみれば明確だ。

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占いコンテンツの配信という事業特性上、ザッパラスは大きな設備投資や事業のための資産をあまり必要としないため、総資産66億円の73.2%にあたる48億円もの現預金を持っている。無借金で自己資本比率も高く、言わば「現金の塊」のような企業だ。

 

そしてスマホ対応の遅れで業績は低迷中のため、株価も低位にある。時価総額は5年近くもほぼネットキャッシュと同じ程度で推移しており、光通信のザッパラスへの投資が明らかになったの2019年度の第2四半期もネットキャッシュ57億円に対し時価総額は52億円だ。

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逆に言えば、現在のような業績が続いたとしても、ザッパラスの時価総額がネットキャッシュを大きく下回ることはないとみて投資しているのではないか。

 3.感想

ザッパラスへの投資もアイチコーポレーションへの投資と同様に「ネットキャッシュ>時価総額」を一つの投資判断の材料としているようだということがわかった。そしてアイチコーポレーションと比較すると、ザッパラスは赤字体質であるものの、財務が良く時価総額がネットキャッシュ以下であるならば黒字でも赤字でもあまり構わないようだ。

今日の関連株

  • ザッパラス(東証一部 3770)モバイル端末向け占いコンテンツ配信が核。20~40歳女性が主顧客。占い事業に経営資源集中