三谷セキサンの自社株買い
三谷セキサンの自社株買い
福井県に本社を置くコンクリート製品メーカーの三谷セキサンが2020年2月14日から実施していた自社株買いを12月10日で終了し、12月11日から新たに17万株を上限とする自社株買いを開始した。以前から三谷セキサンは、自社株買い期間の終了とともに新たな自社株買いを設定することが多く、年がら年中自社株買いを行なっているイメージがあったが、調べてみたところ、実際に2015年5月からほぼ切れ間なく自社株買いを続けていたことがわかった。
三谷セキサンは自社株買いを行なう理由として「機動的な資本政策ならびに株主への利益還元を行なうため」としている。確かに自社株買いを行なうと、その分だけ発行済み株式数が減り、利益総額が変わらなければ1株当たり利益が増えるため、株主としてはもちろん歓迎すべきことだ。しかし、三谷セキサンの場合、自社株買いを行なう理由として将来的なMBOを模索していることがあるように思えてならない。
自社株買いの「株主構成の調整効果」
自社株買いは、自社株買いに応じた株主のみから株式を買い上げるため、自社株買いに応じなかった株主の持ち株比率を上昇させる効果がある。企業に対する期待が高い投資家や取引関係がある持ち合い先企業は、自社株買いに応じるよりも株式保有の継続を選択するため、結果的に企業に対する期待の低い投資家や短期的な投資家を減少させる。
例えば、上の表のような株主構成の企業が10株の自社株買いを行ない、短期的な値上がりを期待している株主Dがそれに応じた場合、株主A(創業家)と株主C(取引先)は保有株式数は不変でも、持株比率は61%から67.7%に上昇する。全株式の2/3を保有する株主A(創業家)と株主C(取引先)が合意すればMBOを実施できるというわけだ。
三谷セキサンの株主構成
2000年から2020年までの20年間の三谷セキサンの株主構成を調べてみたところ、創業家系株主(一般財団法人三谷市民文化振興財団、三谷商事、一般財団法人三谷進一育英会、三谷宏治、三谷滋子、三谷総業)の保有株式数は711.9万株(2000年)⇒731.4万株(2020年)と僅か20万株しか増えていない。しかし、この間、三谷セキサンは578万株の自社株買いを行なったことにより、創業家系株主の議決権比率は28.86%(2000年)⇒38.11%(2020年)へと約10%も上昇している。
2000年
創業家系株主の保有株式数:711.9万株(議決権比率28.86%)
自社株式数:0.9万株
2010年
創業家系株主の保有株式数:724.4万株(議決権比率35.05%)
自社株式数:431.7万株
2020年
創業家系株主の保有株式数:731.4万株(議決権比率38.11%)
自社株式数:579.6万株
まとめ
- 自社株買いには「株主構成の調整効果」があり、友好的株主が増加する。
- 三谷セキサンは2000年から2020年までの間に計578万株(発行済み株式数の23.20%)の自社株買いを実施。
- 三谷セキサンは2015年からほぼ切れ間なく自社株買いをずっと続けている。
- 三谷セキサンの創業家系株主の議決権比率は38.11%まで上昇。
- 仮に取引先の三菱マテリアル、住友大阪セメント等が賛成に回れば、創業家のMBOに必要な残りの議決権比率は約15%
上記のような状況からMBOへのハードルは比較的低いと考えられる。北陸新幹線の延伸工事、国土強靭化計画など事業環境の見通しは比較的良く、また今後も継続的に自社株買いが実施され1株当たり利益及び純資産の着実な成長が見込まれることから、より詳細に事業について調べてみるとおもしろい投資先になるかもしれない。