ラピスラズリの青

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スバル興業の事業立地

 スバル興業の事業立地

大学では、企業の歴史を学ぶ講義を好んで受講し、三菱や三井など財閥の成り立ちや、数々の日本を代表する企業がどのように発展してきたかを学んできた。個人的趣味としても大学図書館国会図書館で100社以上の社史を読んできた。

そうした経験から言えることは、企業の歴史を学ぶということは、企業を多面的に俯瞰して見るということであり、それは投資家として企業を見る目線に似たようなものがあると感じている。そのため、自分自身は投資対象を分析する際に、その企業がどのような歴史を持っているのかについても見るようにしている。

特に好きな企業は、事業環境や社会の変化とともに大胆にその事業を変化させてきたような企業だ。既存事業に固執せずに、儲かる事業立地へと大胆に移っていくアイデンティティが生きているのであれば、今の激変の時代にも生き残っていけるかもしれない。歴史を調べていても、その様はドラスティックでおもしろい。そんな僕が、最近注目しているのが東宝の子会社、スバル興業(9632)だ。

 スバル興業の歴史と事業立地の転換

スバル興業は、映画興行を行なう企業として、戦後間もない1946年2月に三菱系企業の出身者が中心となり設立された。有楽町の映画館「丸の内名画座」は立地に恵まれ、娯楽が少ない当時は大成功を収め、次第に関西や中国地方にも映画館を開館していった。

しかし、娯楽の多様化とともに1960年には映画事業はその成長に陰りが出てきたことから1960年代以降、同社は「誰に、何を売るのか」という事業立地の転換を模索するようになっていった。進出したのは外食事業、ボウリング事業、そして現在の主力事業となる道路関連事業である。

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外食事業、ボウリング事業は「一般消費者にレジャーを売る」という点で映画興行と共通点がある。しかし、道路関連事業は「官公庁に道路関連サービスを売る」という全く異なる事業立地である。1963年に道路関連事業として最初に進出したのが「首都高速道路公団回数通行券の販売受託」、道路公団の委託を受けて通行券の販売を行なう事業である。詳しい資料を見つけられていないものの、映画館で半券をもぎる従業員に通行券をもぎらせたのかもしれない。翌1964年には道路の維持管理分野に進出していった。

 現在のスバル興業

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上記のように、映画興行で創業したスバル興業だが、現在は道路の補修工事や清掃など維持管理を手掛ける道路関連事業が全体の9割を占めている。レジャー事業に分類されていた祖業の映画興行事業も、2019年10月に最後の映画館「有楽町スバル座」を閉館し撤退している。

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 2021年1月期は、レジャー事業で手掛ける飲食店等が新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けているが、主力の道路関連事業では極めて好調に事業が進捗している。道路の安全安心に関わる事業であるため、景気変動や社会情勢の変化に強く、高度成長期に整備された道路・橋梁等の老朽化が進んでいることもあり、中長期的にも安定しているだろう。

 イケイケの新興企業のような眩しさや急速な業績成長はないが、緩やかに成長する高配当の安定バリュー株としては魅力的な投資対象なのではないか。しかも映画興行事業から撤退した今でも映画館で使えるTOHOシネマズギフトカード2,000円という株主優待付きときている。

親会社・東宝との親子関係に変化の兆し(今期、東宝への短期貸付金の大半を取り崩し)もあり、スバル興業が今後どのように企業としての姿を変化させていくかも、企業史ウォッチャーとしても注目していきたい。

 今日の関連株

  • スバル興業東証一部 9632)映画興行で創業も、現在の主力事業は道路メンテナンス。東宝が親会社。飲食店の運営や不動産賃貸も行う。