新家工業の歴史と含み益
新家工業の歴史と含み益
石川県には上場企業が27社ある。歯科医院向けに歯科用品などを通信販売する歯愛メディカル(3540、白山市)など今どきの若い企業もあるが、澁谷工業(6340、金沢市)や津田駒工業(6217、金沢市)など歴史のある製造業企業が目立つ。そして興味深いのは、製造業の上場企業は石川県で盛んな繊維産業や伝統工芸と深い結びつきを持っている企業が少なくないことだ。
既に石川県から大阪府へ本社を移転させているものの、新家工業(7305、大阪市)も伝統工芸から発展してきた経緯がある。
新家工業の歴史
現在の新家工業は、様々な用途に利用される鋼管の製造、自転車関連部品の製造を行なっている企業であるが、新家工業の事業は1903年に石川県山中村(現‐加賀市)において、当時輸入に依存していた自転車用木製リム(車輪)を日本で初めて製造したところから始まっている。
気になるのが「なぜ、石川県(加賀市)で自転車用木製リム(車輪)の製造が始まったのか」という点であるが、それは加賀市には日本を代表する温泉地「山中温泉」があり、江戸時代頃から土産物として漆器製のお椀やお盆など「山中漆器」が作られてきたことにある。新家工業の創業者である初代・新家熊吉も石川県山中村(現‐加賀市)で山中漆器の木地挽き(木を削りお椀やお盆の形に加工する)職人だった。
新家熊吉は、木地挽き職人でありながら山中漆器の販売も行なっており、新たな販路を求めて1902年にウラジオストクに出張した際に、そこで木製リムの存在を知り、木材を円形に削るという漆器との共通点にヒントを得て、木製リムの事業化に乗り出したというわけである。
そうして設立された新家工業は木地挽きのノウハウを生かし事業を拡大するとともに、リムが木製から鉄製へ移行する流れを読み、いち早く鉄製リム製造に着手した。さらに鉄製リム製造のノウハウは、現在の主力事業である鋼管製造に生かされている。
新家工業の現在
このように、山中漆器の木地挽きから自転車用木製リム、木製リムから鉄製リム、鉄製リムから鋼管へと事業を発展させてきた新家工業の現在の主力事業は、鋼管関連事業である。近年では利益の7~8割を稼いでいる。
ただ、この鋼管関連事業で手掛けている鋼管製品は、主に自動車向けや建材として使われるため景気変動の影響を受けやすい。この不安定な鋼管関連事業を下支えする意味もあり、新家工業が強化しているのが不動産等賃貸事業だ。
東京都大田区の旧東京工場(2000年閉鎖)の跡地を2002年からホームセンターのコーナン商事に、2019年からは旧関西工場跡地の一部を大和ハウス工業に賃貸している。この他、賃貸ビルも保有しており、不動産等賃貸事業では年間約4億円の利益を稼いでいる。
そして驚くべきことは、これらの新家工業の賃貸等不動産は貸借対照表計上額711百万円なのに対し、不動産鑑定評価基準に基づいた時価評価額が9,480百万円ということだ。つまり8,769百万円もの不動産含み益を抱えているのだ!
ただでさえ、新家工業のPBRは0.30倍(1月25日終値ベース)にとどまっているが、税引き後賃貸等不動産含み益を考慮した実質PBRは0.24倍だ。旧関西工場を50年の定期借地権契約で賃借している大和ハウス工業なら新家工業を買収してしまった方が安く上がるとさえ思える安さだ。
企業の歴史に興味があり、石川県出身かつ割安株に投資している自分としては、新家工業は非常に気になる存在である。より深く調査してみる価値はありそうだ。