認定放送持株会社
▷認定放送持株会社
米系アクティビストファンドのRMBキャピタルが、テレビ朝日ホールディングスの株式約1%を取得。6月26日開催のテレビ朝日ホールディングス定時株主総会に20億円の自社株買いを求める株主提案を提出するとともに、株主として経営改善策を提案する方針だという記事がBloombergに掲載された。
RMBキャピタルが提案する経営改善策は以下のようなもの。
- 収益性の低下が見込まれる地上波放送への投資抑制(地上波放送の電波返上も含め)
- 地方局ネットワークの再考
- インターネットなど新たなチャンネルやコンテンツ創出に重点投資するべき
- 持分法適用会社である東映との資本関係の是正(東映が保有するテレ朝株を自社株買いするべき)
➀や➁の改善策については、テレビ朝日ホールディングス側や一般株主が受け入れることのできない提案であるため、「地上波放送の電波返上」などと話題になりそうな高めの要求をすることで、株主総会シーズンに注目を集め、他の株主を含めた幅広い議論を促進する狙いだろう。そうすることで、④の東映との歪な資本関係、テレビ朝日ホールディングスが過剰に保有する現金や投資有価証券の問題に光を当てようとしているように感じる。
僕も以前、テレビ朝日ホールディングス株の割安さについてブログで指摘したし、RMBキャピタルのような「声の大きい株主」が声をあげることは重要だと思う。しかし、これらの経営改善策の提案は、テレビ朝日ホールディングスの事業構造上の問題などに光を当てることはできても、実際に経営陣を動かし、東映との歪な資本関係を是正させたり、現金や投資有価証券を処分&株主還元させることは容易ではないと感じる。それはテレビ朝日ホールディングスが放送法上の「認定放送持株会社」であることに理由がある。
認定放送持株会社は、経営の苦しい地方放送局を救済することを意図して、2008年の放送法改正で導入された制度。放送持株会社に認定されると、➀12の放送局に20%を超えて出資できる、➁単独株主が議決権33.3%以上の株式を保有することを制限、③外国人の議決権を20%まで制限、という3つの効果が与えられる。
多様な言論を保つために、マスメディアが特定の企業に支配されることを防ぐというのが➁、③の議決権規制が導入された理由だが、単独株主が33.3%以上の株式を保有することができないということは、どんなに無能な経営をしていて、株価が低迷したとしても、買収することができない。経営陣を交代させるのも難しい。株主からの経営監視が機能しにくくなる。
放送局株は、基本的に株式市場での評価が低く、6月16日終値ベースのPBRでいうと、
- 日本テレビホールディングス 0.43倍
- テレビ朝日ホールディングス 0.49倍
- 東京放送ホールディングス 0.53倍
- テレビ東京ホールディングス 0.86倍
- フジ・メディアホールディングス 0.34倍
となっている。テレビ東京ホールディングス以外は解散価値の半分程度の評価しかない。評価の低い4社に共通するのは、ROEの低さ、歪な資本政策などがある。しかし、低い評価しかもらえない最も大きな原因は、放送持株会社制度によって株主からのガバナンスが効きにくく、またそうした環境で株主を軽視した経営を続けてきたことにあるのではないか。
今回の件で、テレビ朝日ホールディングスの経営姿勢がすぐに改善するとは思えないが、RMBキャピタルの動きを応援しながら見ていきたいと思う。
▷今日の関連株
- テレビ朝日ホールディングス(東証一部 9409)朝日新聞社系、視聴率は民放キー局2位。高齢者層に強い。ネット放送局「アベマTV」展開