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知っておきたい「敵対的買収」その2

▷知っておきたい「敵対的買収」その2

敵対的買収をテーマにしているTBSの日曜劇場『半沢直樹』を観ていく上での頭の体操として、先日はライブドアによるニッポン放送敵対的買収(2005年)を簡単にまとめてみた。連日ワイドショーや報道番組などで取り上げられ「敵対的買収」という言葉が一般的になったという点で知っておきたいケースの一つだった。

 

この時期に行なわれた敵対的買収としてライブドアのケースと並ぶくらい有名なのが王子製紙による北越製紙(現‐北越コーポレーション)への敵対的買収(2006年)だ。既存の秩序やイメージに縛られないライブドアのような新興企業が敵対的買収に動いたケースとは対称的に歴史ある大企業が業界再編を目指したケースである。今日はこのケースを簡単に整理してみたい。

 

【背景】

製紙業界は2000年代初めまでに王子製紙日本製紙の2強体制が確立されていたが、中堅メーカーも力を持っており、紙製品の需要減少に対応して2強が減産しても中堅メーカーが増産するという業界構造が続いていた。一方で2003年頃から中国沿岸部に大規模製紙工場が稼働し始め、安価な輸入紙製品が国内市場へ流入、原料高や紙製品需要の減少も加わり、さらなる業界再編と効率的な生産が必要となっていた。

 

買収を仕掛けた王子製紙は北海道などに生産効率の低い老朽化した製紙工場が多く、大消費地である首都圏に近くて生産効率の高い製紙工場が欲しかった。

 

買収の標的となる北越製紙は中堅メーカーながらも首都圏に近い新潟県に工場を持ち、徹底した省力化と最新の製造設備の導入で業界トップの利益率をあげていた。

f:id:enterprise-research:20200728212615p:plain中堅メーカー同士で生き残りを賭けた再編へ動き出している時期でもあった。

 

王子製紙北越製紙が提携・合併について協議】(2006年2~5月)

  • 2月-業界団体の活動などで懇意にしていた王子製紙の鈴木正一郎社長と北越製紙の三輪正明社長は両社の提携についての協議を開始することで合意。
  • 3月~5月-両社の幹部による提携協議が始まる。しかし王子製紙側が両社の合併を主張したのに対し北越製紙側は独立の維持を求めたため、提携には至らず。

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➀【王子製紙北越製紙に対して合併提案】(2006年7月3日)

王子製紙の鈴木会長が北越製紙を訪問し、統合提案書を提出。北越製紙・三輪社長はこれを即座に拒否。

 

➁【北越製紙、買収防衛策導入】(2006年7月19日)

王子製紙からの統合提案に対し敵対的買収の脅威を感じた北越製紙は買収防衛策の導入を決議。事実上、敵対的な買収者は20%以上の買い増しが不可能に。

 

➂【北越製紙ホワイトナイト三菱商事に第三者割当増資】(2006年7月21日)

北越製紙三菱商事と提携。三菱商事へ第三者割当増資を行なうことを発表。増資完了(8月7日)後の三菱商事の持株比率は24.44%に。

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④【王子製紙北越製紙に正式に統合提案】(2006年7月23日)

 

王子製紙、敵対的TOB発表】(2006年8月1日)

王子製紙北越製紙の発行済み株式の50.00%の取得を目指して日本初の敵対的TOBを行なうことを発表。(※ライブドアニッポン放送TOBを行なわなかったため日本初)

買付期間:8月2日~9月4日

買付価格:1株800円

買付下限:50.00%

 

日本製紙北越製紙株の8.85%取得】(2006年8月3日)

王子製紙北越製紙を買収すると、王子製紙の圧倒的1強体制になることを恐れた日本製紙北越製紙株の8.85%を取得。三菱商事の24.44%と合わせると33.29%となり王子製紙TOBが成立しても重要議案に拒否権を発動できるようになる。

 

【➂の第三者割当増資完了】(2006年8月7日)

三菱商事北越製紙の議決権24.44%を握る筆頭株主に。

 

⑧【王子製紙TOB期間終了】(2006年9月5日)

王子製紙の実施していたTOB期間が終了したが、発行済み株式数の5.33%しか集められず、TOB不成立。ホワイトナイトとして現れた三菱商事(24.44%)、業界秩序を守りたい日本製紙(8.85%)、北越製紙の取引銀行(約10%)など主要株主を説得できず、北越製紙従業員や北越製紙の立地する新潟県からも反対され、TOBへの支持が広がらず日本初の敵対的TOBは失敗に終わった。

 

【その後&感想】

国内での業界再編を狙った王子製紙であったが、敵対的TOBが「覇権主義的」などと批判され、その後は海外事業へ注力している。国内の業界再編とは距離を置いているように見えるが、中越パルプ工業への出資比率を高め、三菱製紙(2019年 33.0%出資)との資本提携なども行なっている。

 

一方の北越製紙も2009年に紀州製紙と合併し北越紀州製紙へ、2012年に大王製紙を持分法適用会社にするなど2強に次ぐ第三極作りに動いている。しかし国内の紙製品市場が縮小する中で製紙業界では再編が進まず、プレイヤーが多すぎる状態は2006年当時と変わっていない。

 

新型コロナウイルスの影響によりデジタル化が急速に進んでいる。今後も紙製品の需要も上向くとは思えず、国内でさらに再編や工場の統廃合を進めていく必要がある。そのときに再編のカギを握る立ち位置にいるのはまたしても王子北越だろう。

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