知っておきたい「敵対的買収」その1
▷知っておきたい「敵対的買収」その1
日曜日から始まった新編『半沢直樹』がおもしろかった。今作では、半沢が証券子会社の東京セントラル証券に出向し、そこで親会社の銀行などを相手に奮闘するストーリーのようだ。新編では「敵対的買収」をテーマにしていて、第1話では、早速、敵対的買収を目論むIT企業が時間外取引を使って標的企業の株式の30%を一気に取得するという様子が描かれていた。
時間外取引は、2005年のライブドアによるニッポン放送の敵対的買収の際にも買収合戦の口火を切る重要な役割を果たしており、おそらくこれが新編の『半沢直樹』のモデルとなっていると思われる。
次回以降の『半沢直樹』を観ていく上での頭の体操として、ライブドアによるニッポン放送の敵対的買収事件について簡単に整理してみたい。
【背景】
ニッポン放送は1954年からラジオ事業を営むメディア界の名門企業であり、フジテレビジョン(フジテレビ)設立時に40%を出資した経緯から親会社であった。ラジオからテレビへとメディアの主役が移り変わった後もこの資本構造は変わらず、ニッポン放送が巨大な子会社フジテレビジョンを抱える形が続いていた。
1996年12月にニッポン放送が東証二部に上場。フジテレビジョンという魅力ある子会社を抱えながらの上場は敵対的買収の標的になる危険性があったが、当時の証券取引所の規定でフジテレビジョンが上場するためには親会社も上場している必要があり、やむなくニッポン放送が上場。翌1997年8月にフジテレビジョンが東証一部に上場。
ニッポン放送とフジテレビジョンの歪な親子関係に投資家が気づかないわけがなく、2001年頃から村上世彰氏率いるエム・エイ・シー(通称:村上ファンド)や外資系ファンドがニッポン放送株を取得していった。2004年3月期時点ではエム・エイ・シーの持株比率は16.64%にも上った。以下が2004年3月期の資本関係。
【2005年1月17日】
長らく続いた歪な資本関係の解消を目指して、フジテレビジョンがニッポン放送の子会社化のためのTOBを発表。これにてニッポン放送が敵対的買収される脅威は去ったと思われた。
【2005年2月8日】
しかしネットと放送の融合のためにフジテレビジョンを狙うライブドアが、証券取引所が開く前の午前8時22分から時間外取引ToSTNeT-1を通じてニッポン放送株の29.6%を一気に取得。以前から保有していた分と合わせて持株比率は35.0%に。
【2005年3月7日】
フジテレビジョンが1月18日から行なっていたニッポン放送へのTOBが終了。ニッポン放送株の36.47%を確保。しかし市場でニッポン放送株を買い増し続けていたライブドアの持株比率は41.01%に。
【2005年3月24日~3月31日】
ライブドアがニッポン放送株の半数を確保することが決定的になる。ニッポン放送はフジテレビジョン株の22.51%を保有しているため、フジテレビジョンにまで攻め込まれる危険性が高まる。これに対応するため、ニッポン放送が保有するフジテレビジョン株を大和証券SMBCとSBIに貸株する防衛策を発表。
【2005年4月16日】
フジテレビジョンの対抗策により長期戦の様相を呈してきたこと、ライブドアの資金繰りが苦しくなってきたことなどから4月18日にライブドアとフジテレビジョンが和解。
【まとめ】
上記のように、この一件ではニッポン放送が保有するフジテレビジョン株を貸株で無効化し、一時的にニッポン放送の企業価値を低下させ買収者のメリットを減じるという一種の「焦土作戦」が採られた。最終的にライブドアとフジテレビジョンは和解に至ったものの、連日ワイドショーや報道番組で取り上げられ「敵対的買収」やそれに対する「買収防衛策」が日本でも広く知られるようになったという点で知っておきたい敵対的買収だ。
次回の『半沢直樹』では敵対的買収を仕掛けられた標的企業がどのような買収防衛策を講じるのか、注意して観ておきたい。