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帝国ホテルを欲しがる人たち

▷帝国ホテルを欲しがる人たち

7月13日に放送された『半沢直樹』の第二部・総集編がおもしろかった。本音を言えばダイジェスト放送ではなく、全編再放送してほしかった気もするが来週からの新編『半沢直樹』にも期待が持てる。

 

ところで『半沢直樹』を観ていて、7年前の放送当時はあまり気にしなかった点が気になった。120億円の投資損失を出し経営危機に陥る伊勢島ホテルについて「日本で一、二を争う格式あるホテル」と表現するシーンである。日本で一、二を争う格式あるホテルとなると、帝国ホテルあたりのイメージだろうか。帝国ホテルが伊勢島ホテルのような経営危機に陥った話は聞いたことがないが、気になって調べてみると戦後の帝国ホテルは株主構成の変遷に頭を悩ませてきた歴史があるようだ。簡単にまとめてみたい。

 

【戦前1890年~1945年】

明治政府の外相・井上馨不平等条約解消のための外交の舞台として鹿鳴館(1883年)などを整備。それに合わせて西洋式宿泊所も必要となった。井上は、渋沢栄一大倉喜八郎大倉財閥)など財界に出資を要請し帝国ホテルを開業させた。筆頭株主は内蔵頭(皇室の財産を管理する宮内省の部局)で、大倉、渋沢、三井、安田などの大財閥も出資した半官半民の形だった。以下は1940年の帝国ホテルの株主構成。

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【1946年~1950年代】

戦後、皇室資産の処分や財閥関係者の公職追放帝国ホテル株が放出される。それらの株式を1953年に金井寛人が取得。金井は戦前の中国においてたばこ事業で大儲けした人物。

【1960年代】

1961年に帝国ホテル東証二部に上場。以下は1962年の株主構成。金井氏が6.29%を保有するが、帝国ホテル社長の犬丸徹三氏と財界で過半数を押さえる。

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【1970・1980・1990年代】

1977年、金井氏の死去により全保有株が小佐野賢治氏が率いる国際興業に売却される。「昭和の政商」と呼ばれた小佐野氏は政財界や裏社会との繋がりを駆使し運輸・ホテル事業を手掛ける国際興業を発展させた。。以下は小佐野賢治氏が帝国ホテル会長の座に就いた1985年の株主構成。以後、1999年までに国際興業は39.4%まで帝国ホテル株を買い増し続ける

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【2000年代】

2004年帝国ホテル株の39.4%を保有する国際興業が業績悪化により米系投資ファンドサーベラス傘下に入る。サーベラス帝国ホテル株をどうするのかが注目されたが2007年に三井不動産帝国ホテル株の33.1%が861億円(1株4,375円)で売却される。三井不動産は周辺に不動産を保有しているため、周辺を一体開発する目論見があると報道される。以下は2008年の株主構成。

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【現在】

2007年に三井不動産という安定株主が入ったことで帝国ホテルの株主構成は落ち着きをみせている。一方で2018年三井不動産帝国ホテル隣接地のNBF日比谷ビルを日本ビルファンド投資法人から640億円で取得、さらに2019年7月には日本経済新聞が内幸町の再開発計画を報じるなど、三井不動産が主導する形で周辺の再開発に向けた準備が進んでいる。帝国ホテルも本館(1970年築)の老朽化が進んでおり、その建て替えは再開発計画に大きく関係してくることになると推測される。

www.nikkei.com 

 

 

半沢直樹』の作中では経営危機に陥った伊勢島ホテルはその伝統と格式に興味を持った米系ホテルチェーンの傘下に入る話になっているが、帝国ホテルについても、金井や小佐野、サーベラス三井不動産などが動いてきたのは、やはり伝統と格式のある「帝国ホテル」ブランドに魅力があったからだろう。

 

新型コロナウイルスの影響により帝国ホテル株は値下がりしているが、そのブランド力は健在だし、保有する不動産価値からみても割安。再開発計画のキーとなるピースであることから三井不動産の資本政策変更(帝国ホテルの完全子会社化など)もあるかもしれない。今期決算発表(たぶん大赤字)、GoToキャンペーンの延期などの短期的要因でさらに売られるようなら、僕も「帝国ホテルを欲しがる人たち」のうちの一人になると思う。

 

▷今日の関連株

  • 帝国ホテル東証二部 9708)高級シティホテルの草分け。賃貸ビルが安定収益。三井不動産と提携。五輪前の再開発は見送り。
  • 三井不動産東証一部 8801三菱地所と並ぶ総合不動産の双璧。ビル賃貸主力。マンション分譲、非保有不動産事業を拡大。