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地主の新聞

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上場企業は事業年度終了から3か月以内に有価証券報告書を提出することが「金融商品取引法」で義務付けられており、3月決算企業ならば6月末までに有価証券報告書を提出しなければならない。そして意外と知られていないが、非上場企業でも株主数が1,000人を超える企業は有価証券報告書の提出義務がある。有名どころだと竹中工務店日亜化学工業朝日新聞社日本経済新聞社などはEDINET有価証券報告書を閲覧することができる。

 

通常、非上場企業は経営実態がベールに包まれているが、有価証券報告書が提出されれば丸裸も同然である。僕は毎年、朝日新聞社をチェックしているが非常におもしろい。今年も6月25日に2020年3月期有価証券報告書を提出したので簡単に見ていきたい。ポイントは以下の3つ

  1. 新聞事業の不振、不動産事業の好調
  2. 強固な財務
  3. 盤石の株主構成

 

1.新聞事業の不振、不動産事業の好調

想像に難くないが、新聞社は新聞離れの加速で事業環境が厳しい。朝日新聞社も前期は売上高は3,536億円(前年同期比▲5.7%)で9期連続の減収、営業利益は23億円(同▲73.1%)の大幅減益となった。長期業績を見ても右肩下がりである。

f:id:enterprise-research:20200704172805p:plainセグメント別に利益をみると、朝日新聞社の経営実態が見えてくる。

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新聞や折り込みチラシといったメディア・コンテンツ事業がかつての収益力を失いつつある中、朝日新聞社の稼ぎ頭となっているのは不動産事業である。2020年もメディア・コンテンツ事業が▲49億円の赤字となる一方で、不動産事業が74億円を稼ぎ、その赤字を埋めている格好だ。ここ10年の実態としては「地主が趣味で新聞を発行している」レベル。また経常損益の段階では持分法投資利益や受取配当金が100億円程度乗ってくる。

 

2.強固な財務

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朝日新聞社は現金900億円、有価証券2,000億円、不動産事業の関連資産が1,800億円と資産の質が良い。実質無借金で債務もほとんどが従業員の退職給付債務(退職金、企業年金)だ。

 

3.盤石の株主構成

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朝日新聞社筆頭株主は従業員持株会で25.48%、次いで子会社のテレビ朝日ホールディングスが11.88%。そしてオーナー一族の村山家、上野家で30%超を保有している。また新聞社は日刊新聞法という法律で、株主を事業に関係している者に制限できるため、株主構成の面で外部から脅威を受けることはない。

 

 

感想

僕は前々から、ニュースアプリなどでも読める記事しか提供できない新聞は急速に淘汰され、その意味では日本経済新聞以外の新聞はほとんど生き残れないのではないかと考えているが、朝日新聞社の2020年3月期有価証券報告書を読んで感じたのは、これを読む限りは朝日新聞社は新聞が売れなくなっても、不動産事業や金融収益でその費用を捻出しながら新聞事業をやっていくことができそうだということだ。まあ紙だとかデジタルだとかの媒体の問題に拘らず、課金するだけの価値のある情報を届けられれば読者は付いてくるんじゃないだろうか。

 

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