ラピスラズリの青

主に自分の好きなものや興味のあることと企業をからめて

波乱の社史を持つ企業「フェローテック」

 

 波乱のフェローテック

 

スーパーサイクルとも言われる半導体市況の活況を追い風に業績絶好調のフェローテックジャスダック上場 6890)だが、その歴史を見ると同社は池井戸潤のドラマにできそうなくらい、数々の修羅場を潜り抜けてきている企業である。

 

同社の主力製品は半導体製造装置向け真空シールである。同製品で世界シェアの7割を握っている。真空シールは磁性流体を基盤技術としている製品で、磁石に引き寄せられる液体のこと。1960年代の初めにNASAが開発した液体材料である。

フェローテック社はこの技術を手に、成長を続けてきた。

 

創業者の山村章社長は1969年に米ノースイースタン大学大学院修士課程を修了後、米ケンブリッジ・サーオミニックス社で研究開発に従事した後、磁性流体の将来性や市場性を感じ、1979年フェローフルイディクス社に入社。1980年の日本法人設立を担当した。

 

フェローテックの社史

 

 

1.設立経緯

フェローテックは米国フェローフルイディクス(Ferrofluidics Corporation、以下米国フェロー社)が1980年9月に設立した日本法人である。つまり元外資系。設立当初の社名は「日本フェローフルイディクス」(以下、日本フェロー社)。米国フェロー社の磁性流体技術を利用した製品を日本市場で輸入・販売する企業として、日本フェローを設立した。

 

2.創業期

当時、国内に磁性流体の技術はあったものの商業化が遅れており、それを使った磁気シールも知られていなかった。そんな中で真っ先に、磁気シールに目を付けたのが日本真空技術(現‐アルバック)で、用途は同社の半導体製造用の真空装置向けとしてだった。

 

また、日本フェロー社には真空シールだけでなく、コンピュータシール技術があり、それがHDD用部品としても富士通日本電気といったHDDメーカーに採用された。

 

1982年には、それらの企業の仕様変更対応や納期の要求に応えるため、これまで米国フェロー社の製品を輸入していた体制を改め、国内での製造に切り替えていった。

 

3.MBOによる独立

このように好調な滑り出しを見せた日本フェロー社であったが、この頃、ナスダック市場への上場を果たした親会社の米国フェロー社は、上場によって得た資金や借り入れにより、ショッピングセンターやコンドミニアム等への不動産投資に傾倒し始め、結果的に失敗し、その借入金の返済のため、子会社日本フェロー社を売却することとなった。

 

そして1987年に久保田鉄工(現‐クボタ)と日本合同ファイナンス(現‐ジャフコ)の支援の下で日本フェロー社は独立した。

 

独立の際に米国フェロー社と日本フェロー社の間で磁性流体製品に関するライセンス契約を結び、またそれから4年後の1991年には磁性流体技術を国産化した。

 

4.特許紛争

独立を果たした日本フェロー社は、1990年に販売子会社を米国に設立し、米国フェロー社とのライセンス契約が切れた製品に関しては、日本国内で製造し、米国で販売していた。しかし、米国フェロー社の製品よりも安価で高品質であったことから、米国市場で次第にシェアを獲得したことで、米国フェロー社は危機感を抱いていった。

 

米国フェロー社は1992年、突如、日本フェロー社をライセンス契約違反を理由に提訴し、50億円を要求。

 

一方で、米国フェロー社が日本フェロー社が特許を保有している製品の日本市場でのダンピング販売を計画していることが明らかになったため、日本フェロー社も逆に提訴し、訴訟合戦となった。

 

国際商業会議所(ICC)に仲裁要求を出すまでに至ったが、紛争解決に要する様々なコストを勘案した結果、和解に進んだ。

 

和解条件 1.日本フェロー社が米国フェロー社にロイヤリティ10.5億を支払う

     2.米国フェロー社は日本フェロー社に独占販売権を認める

     3.米国フェロー社は日本フェロー社の新株を引き受け

 

5.親子逆転

1995年に現社名のフェローテックに商号変更した日本フェロー社は翌年、日本証券業協会の店頭登録を果たし、拡大を続けていた。

 

一方で、米国フェロー社は前述の磁性流体を巡る訴訟問題が発生していた頃から、日本法人を売却し、多額の現金を手にした2代目社長が暴走し、粉飾決算インサイダー取引に手を染め、株主代表訴訟を起こされたり、1993年には米国証券取引委員会(SEC)から立ち入り調査を受ける状態となり、社長は解任され、後にSECから告訴、有罪となった。

 

当然、社員の士気も下がり、株価も大きく下落した。そこで日本フェロー社の山村社長は米国フェロー社を買収し、世界市場に打って出ることを決めた。1999年10月に両社はTOBで合意し、再び両社は一体となるとともに、親子関係が逆転した。

f:id:enterprise-research:20180405192522p:plain

このように2000年から会社規模が急激に拡大。現在では売上高738億円、経常利益56億円(2017年3月期)にまで成長している。

 

最後に

 

大学や国会図書館で社史を読み漁っているうちに思うようになったのは、同社のように半導体関連産業という波が大きい業界で、これまで数々の危機を乗り越えてきたような企業には何らかの強み(事業上の強みに限らず、運なども含む)があるはずであるということである。フェローテックは2020年に創業40周年を迎えるが、息の長い企業になりそうな予感がする。